本屋とか中心街についての一考察
「火星の生活 LIFE ON MARS|堀部篤史」

著者の堀部氏は、本以外の商品も併売するセレクト型複合店と呼ばれる本屋の店長を長く勤めていたが、2015年に独立を果たし<誠光社>を開いた。その新刊書店は瞬く間に人気を博し、各媒体にも多く取り上げられ、今日では地元はおろか旅行者もこぞって来店する京都の新名所のようになっている。

<誠光社>はできるだけ出版社と直接取引をし利益率を引き上げることにより、本中心の商品構成という本屋本来の形での営業を展開している。この大手取次を通さない仕入れ方法はその後拡大し、ブックバーなど私のような純粋な本屋ではない業態の店でも新刊本の仕入れが可能となっており、そのフロンティア的存在である堀部氏からは間接的に大きな恩恵を受けている。感謝。

2018年には<八戸ブックセンター>への取材で来八されており、その打ち上げで開店間もない当店にもご来店いただいている。カウンター席から振り返り本棚をじっと見つめていた姿がとても印象に残っている。なぜあの時私はサインを貰わなかったんだといまだに後悔している次第だ。以下のリンク先がその時の堀部氏のテキストだ。「これからの図書空間」と題したとても興味深い内容なので是非ご一読いただきたい。

本屋が斜陽産業となって久しい。鋭角的な角度で全国の書店が減少しているのは誰でも耳にしたことがあることだろう。検索したところ全国1741市区町村のうち26%にあたる456市町村で本屋がないらしい。この数値は今後も増えていくだろう。でもご時世、地元に本屋があろうがなかろうが関係ない。本に興味がない人はもちろんのこと、本を日常的に読む本を欲しい人にさえなんら影響がない。だってAmazonがあるから。ポチッと注文から数日で自宅ポストに届く時代だ。時代は変わったのだ。思えば遠くへ来たもんだ(©武田鉄矢)。欲しい本がなくても近所の本屋に行って、知らない本と出会いながら育った私としてはいささか寂しい話だが、欲しい本をピンポイントで手に入れるには便利な世の中になったと言わざるを得ない。

経営が厳しいのは本屋に限ったことではない。個人経営の八百屋、肉屋、魚屋、酒屋など、いわゆる町の商店が減少の一途だ。前述のように全国のものが何でも配送できてしまう時代なので、地域に住む人だけを相手にした商売が先細りになるのは自明の理だろう。堀部氏はこう語っている。

「町の本屋」が絶滅寸前なのではなく、他業種も含め、「町」というコミュニティの中でやりくりをする商店が成立しにくくなる一方、お客さんの絶対数が減りつつある本屋は地域外を視野に入れた都市的なあり方を求められている。かつてのあり方に問題があるならば、問題を整理して解決策こそを語るべきだろう。シンプルな言説やクリシェが視界を曇らせることは少なくない。

『火星の生活 LIFE ON MARS』,誠光社,2014年5月10日発行

では「町」とは何か。伊丹十三氏のエッセイにその言葉の定義を端的に説明したものがあったと堀部氏は語っている。

かつて町は人の住むところであった。おでん屋にせよ牛乳屋にせよ、祭りになれば店の二階に住むそれぞれの主人が神輿を担いで隣町と競い合った。ところがいつの間にか商店は賃貸で経営し、近隣より通うものになる。その結果「町」が「街」、つまりストリートとなった。

『火星の生活 LIFE ON MARS』,誠光社,2014年5月10日発行

八戸の中心街に目を向けると、アーケードがあった昭和の頃は一部でまだ「町」の雰囲気があったかもしれないが、今や完全に「街」だ。私も近隣から通って店を経営している。近年では高層のマンションが中心街に増えていて、今後さらに複数建設される計画があるという。つまらない中心街になると思っていたが、居住人口が増えればそこには商売が生まれるものだから、長い目で見れば現在向かっている方向はあながち間違いでもないかもしれないとも思えてきた。

「ハァ~、映画館もねぇ古本屋もねぇレコード屋もねぇ」と、かつての吉幾三のヒット曲のような、カルチャーが死んだ街の八戸だから私はやることに決めた。まだ見ぬ本との出会ができる新店を計画しているのだ。前述のように本屋には厳しいこのご時世を承知の上でだ。八戸をなんとかしたいなどと利他的なことは全くもって考えておらず、単純にあれば嬉しい店を自分で開くだけだ。それが結果的に中心街の賑わいの一助になるのであればそれでいい。それもこれも全ては物件から。中心街に遊ばせている物件をお持ちの御仁はおりませんか。路面にこだわりません。何卒私に超安価でお貸しください。

最後に、この本の帯も堀部氏ご自身で書かれておりとても秀逸だ。ここに全文を記して今回を締めたい。

本読んで、レコード聴いて、映画観て。面白がったり、比べたり、つなげたりして文章書いて、本売って。そうやって稼いだお金でまた本とレコード買って、映画観る。たまには本をこしらえてみたり、原稿料を頂戴したり。そうして得た雑所得でまた本を買う。結局手元に残ったのは、書き散らした雑文だけ。それをまた本にして、売って、お小遣い貯めて、本屋か映画館へ。

『火星の生活 LIFE ON MARS』,誠光社,2014年5月10日発行

なんと素晴らしい生き方だろうか。そういうものに私はなりたい。

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PROFILE

本村春介(もとむらしゅんすけ)

青森県青森市生まれ。小学6年時に八戸市に移住。2018年、脱サラし八戸市十六日町に「AND BOOKS」を開店。2021年、店舗向かいに「分室」をオープンし、各種カルチャーイベントを随時開催している。また書籍販売もしており、本による街の活性化を図る「本のまち八戸」において新たな拠点となっている。読書量は人並みで、小説より随筆、エッセーを好んで読む。好きな作家は「せきしろ」と「くどうれいん」。お客さんからの最多質問は「ここにある本、全部読んだんですか?」で、もちろん全部は読んでいない。
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