ビジュアルをつくることだけがデザインじゃない

澁谷:お客さんから仕事を相談されてデザインするのが我々の使命なんだけれども、やらなくてもいいこともやっていますよね?

〈澁谷デザイン事務所〉の澁谷和之さん(秋田県)

佐々木:「クリエイターズジャム」は毎月やっています。デザイナーだけではなく、カメラマンやライター、アートディレクターを対象にした講座や、「逆回転」をテーマに、デザインのでき上がりからスタートして、「どうやってできあがったのか」の順を追っていくものとか、ウェブディレクションの講座とか。みんなに来てほしいという思いから、満遍なく、広く、浅くテーマを設定しています。

澁谷:会場から、「デザイナーは撮影もするのですか?」と質問をいただいていますが、カメラマンは別で手配しますよね?

佐々木:そうですね。

澁谷:現場にはいて、こっちの方がおいしそう! とか指示は出すけどね。

阿部:僕はほとんど自分でやっちゃう。お金もないですし、お客さんと直に会って、ある程度関係性をつかんで浮かんでくるアイデアとかもあるじゃないですか。それを、また違う地域の人たちに伝えるのが、面倒というか……本当はでも頼みたい。クオリティ全然違うから。

澁谷:阿部さん今移住されて3年目ですよね。たぶん僕もそのくらいまで自分で撮ったりもしてたんですよ。コピーライティングもして、絵も描いて、写真も撮って。でも頼みたいとなりました。今まさに3年目がその段階なのかなって。

阿部:カメラマンとライターが近くにいてくれたら本当に助かるなって、最近すごく思う。

佐々木:地元に……

西山:だから育成ってことですよね。あわよくば一緒に仕事できる人を。

澁谷:自分の体制を整えたいというのはありますよね。

佐々木:自分の会社でもなく、部下でもなく、パートナーというか、チームとして育てたいなというのが僕もありますね。

〈アソビス〉の佐々木遊さん(青森県)

澁谷:横塚さんは〈nekiwa〉として独立して3年くらいですか?

横塚:4年目ですかね。

澁谷:横塚さんを訪ねて丸森に行ったときに、建築家のみなさんが仲間とおっしゃっていましたよね。個人でやる限界みたいなのは感じますか?

横塚:同じような話ができる人がもっといっぱいいたらいいなというのがあって、やっていることは違いますけど、新しい観点を教えてくれるというか……。たとえば、ある建築を見て、かっこいいなという感想くらいしかもてていなかったけど、めっちゃ考えてつくられているんだなということがわかったりとか。個人的には、「デザイナーです」と言って、「すごいね」と言われるのが、すごく寂しいというか、一線引かれた気がする。

澁谷:人ごとのような感じになりますよね。

横塚:ビジュアルをつくることだけがデザインじゃないですし、資料つくるときにちょっとだけ使えるデザインの技術の話をしただけで、「すごい」って言われないようになりたいな、と思っています。

〈合同会社nekiwa〉の横塚明日美さん(宮城県)

澁谷:わかる。先生って言われるのとかも辛いですよね。「作品」って言われるのも、僕は敏感に嫌なんですけど、作品ではない。みんなでちゃんとシェアしたい。

デザインの見積もりはどうつくる?

岩井:会場からは、どのくらいのお金でどうやって生きているのか? という質問が10件くらいきています。どなたかお金の話をしていただけますか。

佐々木:その相談はとても多いので、デザインの見積もりのつくり方講座というのを「クリエイターズジャム」の中でやったんですよ。

澁谷:すばらしい……

佐々木:僕はこうやって値段を出していますというのを全部表にして、ポスターはこう、チラシはこうという感じで。

澁谷:どうやってるのか聞きたいんですけど……

吉野:データあるんですか?

佐々木:料金表をつくったんですよ。

澁谷:僕が秋田に帰ってお世話になった会社の社長は、デザインは水商売だって言われてたって、僕の結婚式の挨拶で言ってくれたんですよ。だから澁谷くんの代のデザインは、水商売って言われないようにって。デザインの価格って、あるようでないじゃないですか。100円の場合も100万円の場合もあって、掴めない部分がある。そこをもう少し具体化できたら……

佐々木:料金表はこれです。(※会場では料金表を公開しました。誌面では非公開)

澁谷:すごい。

佐々木:デザインの制作料というのは、企画料・デザイン料・諸経費を3つ足した金額であるということにしちゃいました。

澁谷:わかりやすい。

佐々木:企画料とは、コンセプト設計、プランニング、仕様設計、打ち合わせ、クリエイティブディレクションとか、キャストの手配とかロケハンも含みますと。デザイン料には、デザインワーク本体はもちろん、レイアウト、スケッチ、ダミー制作、リデザインも含まれます。入稿データについても、ちゃんとお金を取りましょう、あと、写真図版のデータ入力、つまり、レタッチとかですね。テキストデータを入力することについてもちゃんと金額にしていきましょうとしました。諸経費は、交通費、宿泊費、キャスト、スタジオレンタル料、カンプ出力料、モックアップ制作料などなど……

澁谷:すごいですね。でも大事。現実的なランニングをしようとすると、結構抜いちゃいがちですよね。

佐々木:これも青森の価格ですよ。だいたい肌感覚あってます?

澁谷:合ってます。

阿部:ざっくり概算を出してください、みたいな相談も出てくるじゃないですか。そのときってどうしてます?

〈のはら〉の阿部拓也さん(岩手県)

佐々木:この料金表を投げます。これ参考にしてくださいって。

澁谷:それクリアですよね。これでやれるのであればぜひやりましょうって。

阿部:そうか。相手に投げちゃう。

佐々木:投げて、依頼していただけるのか、いただけないのか、判断はお任せいたします、みたいな感じです。

西山:企画に対するリサーチとか、そのほか色々発生するとこあるじゃないですか、イベントとか。そういうのってどうしてるんですか?

〈株式会社marutt〉の西山里佳さん(福島県)

佐々木:自分の時給というか……自分が1時間動いたらいくらなんだろう。

澁谷:いくらの男なんだろうって。それで換算するしかないですよね。

佐々木:デザインワーク以外ですね。デザインワークを時給でやるとしんどいじゃないですか。

澁谷:無理ですよね。

佐々木:なので、デザインワークとそれ以外のことを分けて考えています。

澁谷:けっこうクリアに遊さんお出しして、できる、やりましょうって場合もあれば、そこでできないという場合も多いにあるんじゃないですか? この間吉野さんとは話していましたけど、ボランティアと言ったらおかしいけど、ここかなり度外視することないですか。まずやるかみたいな……

吉野:そうですね。まず予算を聞くという感じですね。でも出さないみたいな。でも出してって(笑)。本当は予算があるのに言わないって人多いですよね。それで小出しにすると高いって。予算ないって言ってたじゃんみたいな(笑)。先方の予算内で、ベストなパフォーマンスをどう組み立てるかを提案するみたいな感じです。

〈吉野敏充デザイン事務所〉の吉野敏充さん(山形県)

髙木:僕も、だいたい遊さんぐらいの金額を提示することが多いんですけれども、やっぱりどういうものができるのかわからない段階の依頼が結構あって、見積もりを出しにくいパターンがあるんですね。まず、1時間の自分の給料みたいなのを自分なりに設定していて、それに基づいて最終的に算出したり、というのをこれまでトライ&エラーしながらやってきました。僕の義父さんが大工さんをやっているので、大工さん組合では最低日当このくらいだ、とか、ほかにペンキ屋さんの日当とか、そういうデザイン業界じゃないけど、なんとなく想像してもらいやすい相場感で自分の時給を決め、そして成果物が生み出すであろう価値みたいなところをなんとなく想像して金額を提示するようにしています。ちゃんとクライアントさんにその根拠・理由を説明できるように考えながら金額は決めています。

澁谷:1時間いくらの男みたいなのって、40過ぎてくると、もう少し高い男になりたいな、5,000円くらい上げたいな、みたいなね。成長したい。成長はしてるよね?

佐々木:10代20代30代40代の節目で、上げた方がいいのかなってなんとなく。

西山:来年上げます。

澁谷:2倍くらいに(笑)

西山:え〜(笑)

澁谷:難しいですよね。知的財産というか、40年生きてきたら、いろんな経験を経て、いろんなトライ&エラーがあっての正解を今日出すんだからみたいな、オリジナルに蓄積してのこれですっていうのもあったりして、言い出すときりがないんですけど、ある程度クライアントと理解し合わないと通じないところがありますよね。

自主プロジェクトはどうしてる?

岩井:一方で、髙木さんと澁谷さんは自主プロジェクトでたくさんつくられている。阿部さんも『僕の遠野日記』をつくられていますけど、自主プロジェクトに関してはどうですか?

〈東北スタンダード〉の岩井巽さん

髙木:そうですね。自主プロジェクトは、儲からないことは前提に始めるんですけど、たとえば『北二区のごはん一年分 2022-2023』に関しては、自分のポートフォリオのひとつになるというのと、そこから何かやっぱり発生するんですよね。関係性が新しくできたりとか、その地区の方だったり、北二区の集会場には行政の方だったり、社会福祉協議会の方だったり、ボランティアの方だったり、いろんな方が出入りするので、何かつながりが生まれるんですよ。その集会場にいわき天狗という民芸品が飾ってあって、それがもともと地区にいた職人さんがつくっていたもので、今は亡くなってしまってつくっていないというような話を聞けたりとか、やっぱりそういう金銭にはつながらないんですけど、想像できなかった、なんでしょう、お金ではない出会いだったり……プライスレス。

会場:(笑)

髙木:プライスレスな出会いが好きで、やってます。

〈髙木デザイン事務所〉の髙木市之助さん(福島県)

澁谷:僕がフリーペーパーつくっているのを見て、髙木さんもフリーペーパーつくったんだよね。自主的に動くの、僕、半分以上かもしれない。それは、自分はこういう人間ですとか、これしかできないです、とか……毎月出しているフリーペーパーは、文字組とか関係ない。きれいに文字組するとかじゃなくて、「何を疑問に思っている人間なのか」というのを表現しているもので、それに共感した人と出会いたい。そうするとミスマッチング生まれないんですよ。あんなくそみたいなフリーペーパーつくっている人に頼みたくない、かっこよくつくりたいという人はそこにいけばいいんだけど、なんかこの疑問に共感する、というときにデザインの相談をし始めると、お互い気持ちいいなというのはあって、そういう意味では営業的な自主行動ではあるかもしれないです。

岩井:ミスマッチしたらどうしますか?という質問を会場からもいただいていたんですが、阿部さんは移住されてからまだ一度も遠野の仕事を断ったことがないんですよね? どういう心境ですか?

阿部:幸いなことに今まで仕事が途切れたことがないんですけど、そのうちの何割かはここで受けないと今後どうなるんだろうというのもあるんですよ。要は、予算全然ないんですと、デザインリテラシーが平均よりも低い地域なので、通常の半分以下の金額で相談にくることもあるんです。それを断ることもできたと思うんですけど、ここで僕が断ると、遠野でほかにデザイン依頼できる人ってきっといないだろうなって。そうなるとどうなるかというと、たぶん、ネットのサービスに行くだろうなって。今1万、2万出してつくれちゃいますよね。下手したら無料で。それでできた、なんの愛着も湧かないロゴが、今後まち中にずっと残るという、そういう風景を想像するとすごく嫌だったんですよね。

澁谷:すごく好きになっている遠野という土地がそうなるのはほっとけない。

阿部:それが嫌だったので、受けた仕事がいくつかあります。でもそれはお客さんにちゃんと言ってます。今回だけですよって。偉そうな感じかもわからないんですけど、それは自分の遠野に対する気持ちというか……

澁谷:トークショーのチラシの表面には、各デザイナーの名前とキーワードを入れているんですが、阿部さんは「町医者」と入れています。ある意味メンタリングだったり、なんでも聞いてあげるというところもあるから、お金のところで切れてしまうというのは違ったりして、そこのせめぎ合いはありますよね。

阿部:でもそればかりやってると、食べられなくなっちゃうから悩みます。

後編へつづく

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EVENT

【東北デ、】とは

2019年に澁谷デザイン事務所と東北スタンダードマーケット(運営:株式会社金入)とがコラボレーションし始まった企画。東北で土臭く活動するデザイナーの企画展をリレー形式で行い、2023年に東北経済産業局の受託により、東北のデザインを考えるパネルディスカッションを開催しました。

これまでの活動をまとめた冊子は以下よりご覧いただけます。
>>東北経済産業局:「東北デ、~東北で、デザインするということ~」(冊子)

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佐藤 春菜(さとう はるな)

北海道出身。旅行ガイドブックを発行する都内出版社での勤務を経て2017年より活動の中心を東北に移す。フリーランスの編集者・ライターとして旅や暮らしにまつわる情報をさまざまなメディアに寄稿。東北スタンダードマーケットのウェブサイトでは「工房ストーリー」を執筆。総合旅行業務取扱管理者。手仕事と羊に夢中。