こけし

少し薄暗い玄関で家族を見送り、そして家族を迎え入れる「こけし」。その姿は、東北の日常的な光景だった時代があります。核家族化した現代では私たちの生活の中に「こけし」が共存することは少なくなってしまいました。

「こけし」ブームの始まりは、1928年(昭和3年)天江富弥 著『こけし這子の話』の出版に起因していると言われています。「民藝運動」は、それまで目を向けられなかった無名の作者による手仕事の美しさをあらためて評価する流れでしたが、「こけし」は、芸術作品のように歴史や系統、種類、絵柄、工人自体の人となりまでも研究され、蒐集家(コレクター)の興味関心に火をつけ続けていました。

今や第3次ブーム真っ只中の「こけし」ですが、東北の工芸品の中では特に蒐集家が多く「用の美」と対極をなす「無用の美」とも言われることがあります。しかし、子どもたちの玩具として生まれ、穏やかな表情で私の生活を温かく包んでくれる「こけし」を見ていると、「無用の美」と呼ばれるのが憚れるほど、私にとってはなくてはならない存在であり、そこにあるのがあたりまえの日常になっています。

その時々で好みがコロコロと変わりますが、小椋久太郎工人(秋田県)の木地山系こけし、田中恵治工人(山形県)の蔵王高湯系こけし、佐藤昭一工人(宮城県)の肘折系こけしの3種類は、ずっと変わらず大好きなこけしです。

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PROFILE

大河内英夫(おおこうちひでお)

宮城県仙台市生まれ。旅行情報誌、タウン誌などの編集者として地元企業に就職した後、フリーランスのカメラマン、ライター、編集者として様々な媒体に寄稿。仙台市の伝統工芸品PRサイト「手とてとテ」の制作チームに参加したのをきっかけに伝統工芸品の世界へ。
2015年から株式会社金入のディレクターとして工芸品のバイイングや行政、企業と工芸品との橋渡し役として様々なプロジェクトのプロデュースやディレクションを行う。
頑張って工芸品を生活に取り込むのではなく、「昔のヒトが現代に生きていたらこうだよね」をモットーに、Techと工芸品が当たり前に共存する未来を一人で実践する。