仕事についての一考察
「生きるように働く|ナカムラケンタ」

私は仕事のある1日を3つに分けて考えている。それぞれ8時間ずつ、仕事、睡眠、自由だ。この比率がある程度守られていれば、さほど悪くない人生だろうと思う。しかし実際には通勤や残業など仕事に関わる時間が多くなり、その分睡眠か自由の時間が削られる。

大きなウェイトを占める仕事だからこそ、それを充実したものにすることができたなら幸せな人生を送れるだろう。そう考える中で出会ったのが、本書「生きるように働く」だ。

「生きるように働く」とはどういうことだろうか。そう思って1ページ目を開いたら、その1行目に答えが書いてあった。

働いているときも、そうでないときも、自分の時間を生きていたい。

ナカムラケンタ『生きるように働く』,ミシマ社,2018年10月1日発行

あなたは働いている時でも自分の時間を生きているだろうか。サラリーマンならばこれはなかなか難しい。私のサラリーマン時代は自分の時間を切り売りして賃金を得ていた感覚だった。いつも職場や人間関係に我慢しながら働いていた。自分の仕事やその環境に不満なく、やる気に満ち溢れて働いているサラリーマンは少ないと思うがどうだろうか。

著者のナカムラ氏は、世の中にはいろいろな生き方・働き方があることを伝えたいという思いから<日本仕事百貨>という求人サイトを立ち上げた。求人のある職場を訪れ、取材し記事にまとめている。求人サイトなのだが、丁寧なテキストと写真で、上質なブログを読んでいるような感覚だ。職場の雰囲気とそこに働く人となりを読み取ることができて、最後にオマケのように求人情報が載っている。このサイトによって、より職場にマッチした人材が集まるだろうと思われ、離職率が低くなるのではないかと思った。

生きるように働いている人の仕事をナカムラ氏はこう定義している。

生きるように働いている人たちの仕事には、二つのスタートがあると思う。一つが「自分ごと」であり、もう一つが「贈り物」。前者はぼくのように、まだニーズはないけど、自分がやりたいと思って始めたこと。(中略)後者の贈り物は、誰かに求められたことに応えること。

ナカムラケンタ『生きるように働く』,ミシマ社,2018年10月1日発行

これは起業した人についてのものだと思われるが、私が始めた<AND BOOKS>は完全に「自分ごと」だ。開店当初、ほぼ鳥屋部町である十六日町の端には夜の店のニーズはなく暗闇が広がっていた。唯一ファミリーマートの明かりだけが煌々と光っていた。ニーズとか夜間人口とか考えず、ただ単純に家賃が安かったからこの場所で始めたブックバーなのだ。

さらにナカムラ氏は<仕事バー>なるものをつくった。そこはいろいろな生き方・働き方をしているゲストと参加者が直接語り合うことのできる場だ。知らない世界の話を聞き、語り合うことで大きな刺激を受けるだろうと容易に想像ができる。

彼は<ソーシャル>や<コミュニティ>といわれるものが、提供する側と受ける側とで明確に線引きされておらず、自然とそこに生まれて存在している場所が好きなのだという。

好きなバーというのも、まさにそういう場所。お客さん同士がまったく知らないバーよりも、お互いに緩やかな距離感を保ちながら、自然とつながってる場所のほうがいい。顔を出したら、知っている顔が何人もいる。自然と会話がはじまって、お酒も進む。(中略)行きつけのバーがなくなるのは寂しいこと。だから、みんなお店がずっと続いていくように応援する。(中略)お客さんのようでいて、完全に客とも言い切れない。でもお店の人とも違う。客と店には明確な線が引かれているわけではなく、その間が存在している。

ナカムラケンタ『生きるように働く』,ミシマ社,2018年10月1日発行

私が目指している店がまさにそのままこれだ。ありがたいことに当店でも数年前からこのような小さなコミュニティが出来上がりつつあって、時には橋渡ししたり、時には常連に任せたりして、お客さん同士が繋がっていく過程をカウンター内から目を細めて眺めている。

この本を読むまでは意識していなかったが、私はこの店を始めたことによって、生きるように働くことを、知らずに手に入れていたと知った。

例えばあなたが今独身で実家暮らしをしていて、生きるように働けていないのであれば、今すぐその仕事を辞めるべきだと、無責任に助言する。親のおかげで衣食住が保障されている恵まれた状況を生かして転職した方が良いと思う。自立するであろう将来への準備をするべきだ。我慢してイライラする毎日にストレスを溜めていても何も生まれない。ストレスを溜めないでお金を貯めよう。

とはいえ転職にはリスクが伴うこともまた事実。転職した先が前職を下回っていては意味がない。必ず家族に相談してください。

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PROFILE

本村春介(もとむらしゅんすけ)

青森県青森市生まれ。小学6年時に八戸市に移住。2018年、脱サラし八戸市十六日町に「AND BOOKS」を開店。2021年、店舗向かいに「分室」をオープンし、各種カルチャーイベントを随時開催している。また書籍販売もしており、本による街の活性化を図る「本のまち八戸」において新たな拠点となっている。読書量は人並みで、小説より随筆、エッセーを好んで読む。好きな作家は「せきしろ」と「くどうれいん」。お客さんからの最多質問は「ここにある本、全部読んだんですか?」で、もちろん全部は読んでいない。
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