これからの本屋読本|内沼晋太郎

新規出店についての一考察
「これからの本屋読本|内沼晋太郎」

拠点的存在だった百貨店の閉店や再開発計画、夜のランドマークだったテナントビルの破産、それらに伴う近隣商店の閉店や移転。八戸市中心街は転換期に突入したと言っていいだろう。

誰が言ったか「ピンチはチャンス」。個人的にはピンチはどこまで行ってもピンチでしかないと思うのだが、これから個人で起業、新規出店を考えている人からすれば、新たな物件に出会えるチャンスなのかもしれない。

「これからの本屋読本」は、私が運営する<AND BOOKS>を開店した2018年に出会った。著者は八戸ブックセンタープロデューサーであり、ブックコーディネーターの内沼晋太郎氏。新刊書店の<本屋B&B>や、出版社<NUMABOOKS>の経営者でもあり、本に関る活動の場は多岐に渡っている。有難いことに当店にも数回ご来店いただいており、私はすでにマブダチだと思っている(一方的に)。ちなみにB&Bとはブックアンドビヤーであり、ビールなどのドリンクを楽しみながら本を選ぶことができるのだ。このスタイルは八戸ブックセンターにも踏襲されている。

この本は本屋の経営に関する内容だが、他業種にも置き換えることもできる金言が多い。私はすでに複数回読んでいるが、その度に新しい気づきが得られ、日々小商いを営む上で、バイブルになっている。

新規出店場所について、内沼氏はこう語っている。

一等地にあり、誰でも入りやすい店にすると、それだけいろいろな客が入ってくる。(中略)意思をもった人しか来ないような、あえて一歩引いた立地にすることで、ゆるやかに客を選び、その人たちに心地の良い場所をつくることに集中できる。時間はかかるが、近しい感覚をもった客が増えていく。そう考えると、むしろ家賃の高い一等地は、あえて外したほうが良いとも言える。例としては極端だが、隠れ家的なバーなどをイメージするとわかりやすい。そのほうが、濃密なコミュニケーションが生み出しやすいのは自明だ。

内沼晋太郎『これからの本屋読本』,NHK出版,2018年5月30日発行

この文章を読んで<AND BOOKS>を今の場所に開いたのは間違いじゃなかったと肯定された思いがした。まさに私が目指した店のイメージそのままだ。

来店には2通りあるという。一つは通りすがりの人が入ってみるかと思う「衝動来店」。もう一つはあの店に行きたいと、わざわざ足を運んでもらう「目的来店」だ。前者をメインに考えるならば、できるだけ人通りの多い路面店を選んで、回転率の高い店にしなければならないだろう。後者の場合は、繁華街から多少離れたテナントビルの2階や3階でも良いだろう。その場合、多くの客を望めない分、一定数のコアなファンを獲得して継続して通ってもらえる店作りをしなければならない。引用した内沼氏の考え方は完全に「目的来店」のそれだ。

また内沼氏は来店ターゲットについても語っている。

商圏のすべての人を対象にすると、逆に無色になってしまい、誰からも求められない本屋になってしまう恐れがある。ターゲットを一度ある程度絞り、店のカラーをはっきりさせることで、逆にふだん本屋に足を運ばない人にまで、あらためて間口を広げていける可能性がある。

内沼晋太郎『これからの本屋読本』,NHK出版,2018年5月30日発行

どの業界でも店はあまたある。自分の店にしかない特色を作ることによって差別化を図り、来店動機につなげるという考え方だ。ちなみに当店は「ブックセラーバー」と謳い、お酒と本を一緒に楽しめる夜の店だ。気に入った本は買って帰ることもできる。このコンセプトは私の知る限り八戸市では当店のみで、他店との差別化となっている。

私の店は八戸市の夜の繁華街から少し離れた十六日町にあり、完全に目的来店型だ。開店当初は、わざわざ歩いて来てくれるのかと不安もあったが、目的来店重視の店づくりをしたほうが、長い目で見て理想とする雰囲気の店が作れると思った。

目的来店型の店舗を目指すならば、これからは廿三日町や廿六日町が面白い出店エリアではないかと個人的には思っている。他にはない独自の特色を作り出せれば、同じ趣味趣向を持つ人が集うだろう。人が集まればそこは場となる。場には自ずと熱が生じ、その結果、新たな拠点となるだろう。

などと、ここまで偉そうに述べてきたが、当店は開店からまだ5年目で諸先輩方からするとまだまだペーペーの小僧(48歳)だ。

この記事が今後出店を目指す誰かの参考になって、先行き不透明な中心街を盛り上げる一助になれば嬉しい。金は貸せないが、知恵はいくらでも貸せる。出店を目指すあなたの相談にいつでも乗りますよ。

AND BOOKS
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PROFILE&PLACE

本村春介(もとむらしゅんすけ)

青森県青森市生まれ。小学6年時に八戸市に移住。2018年、脱サラし八戸市十六日町に「AND BOOKS」を開店。2021年、店舗向かいに「分室」をオープンし、各種カルチャーイベントを随時開催している。また書籍販売もしており、本による街の活性化を図る「本のまち八戸」において新たな拠点となっている。読書量は人並みで、小説より随筆、エッセーを好んで読む。好きな作家は「せきしろ」と「くどうれいん」。お客さんからの最多質問は「ここにある本、全部読んだんですか?」で、もちろん全部は読んでいない。
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AND BOOKS
青森県八戸市十六日町48-3 本多ビル2F
TEL|090-2275-3791
営業時間|19:00〜24:00
定休日|月曜日・火曜日

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