“集中治療室にいる”八戸中心商店街。
再生の鍵となるものは。

ーー前編でも〈ドラゴンラーメン〉を始めた理由について触れていますが、実はもうひとつ理由があると本の中にもありましたね。

石動:もうひとつは、中心街をもう一度元気にしたいという思いがあったからです。僕が子どものころの中心街は、非常に賑わっていました。どこに行くかといったら中心街という感じで。でも今は、空きテナントであふれかえっています。

ーー2022年には、八戸を代表する百貨店のひとつだった〈三春屋〉もなくなってしまいました。

石動:中心街の危機感は相当ですよね。僕は、八戸の中心商店街は今「集中治療室にいる」と思っています。それくらい危機的な状況だと。何もしなければ、どんどん店がなくなっていき、まちが死んでしまう。だからこそ、何かをやらなきゃという思いが強かったです。とりあえず人が来る場所にしてしまおうと思い、ラーメン屋を開きました。最近では、『青空マーケット』という飲食・物販イベントを開催することができ、微力ではありますが、まちのにぎわいに貢献できたのではないかなと思います。これからもいろんなアイデアを試しながら、人が集まる場所を増やしていきたいですね。

ーー八戸はどんなまちを目指すべきでしょうか。

石動:僕個人の考えですが、このエリアを再生させるには、西荻窪とか吉祥寺のようなまちを目指すことに、明確な解があるのではないかと。多くの個人店が連なり、ぶらぶら散歩していておもしろい場所になるということです。その地域で独自に商売をしている店が立ち並ぶから、おもしろいんです。そういった雑多なおもしろさは、朝市で実現できているので、中心街でも実現できると思います。

ーー吉祥寺では、チェーン店が増えて地価が上がり、それまで個人店を開いていた人たちは西荻窪に流れているというニュースがありましたね。

石動:吉祥寺ですらそうなんですね。たしかに消費者目線で考えると、中心街に行くより、便利で、無料で駐車場が使えて、なんでも揃う郊外のショッピングモールに行くほうが手軽でいいと思います。

でも、居住者の目線で考えると、日本全国どこにでもあるチェーン店しかない、金太郎飴のようなまちは、つまらないと思います。例えば、県外の友人が八戸に来たとして、案内できる場所がイオンだけという事態になっていたら、相当恥ずかしいですよね。

だからこそ、このエリアの特性や魅力を集め、価値を見出し、付加価値をつけて発信していくことが重要なのです。それは、作り手や地域を守っていくことにもつながります。今こそ八戸は、自分たちの力で経済的に自立していかなければならないと考えています。そういうまちを目指すためにも、まずは自分が取り組むし、思いを同じくする人たちと一緒にやっていくのが一番だと思います。

ーーまさしく“直耕”ですね。

石動:本当にそうですね。現在の八戸には、下請け企業が多く存在しています。ですが、下請け企業は儲けにならないんです。それでは、根源的な利益が地域に残りません。

僕は、八戸から上場企業を出したいと考えています。上場企業は、福利厚生も給与水準もよいので、そういった企業が安定的に大きくなったり、輩出されたりすれば、八戸の経済は豊かになっていくと思います。

地方こそ最重要。
パラレルワークのすすめ。

「トマニボ」780円。

ーーそんな八戸市でのこれからの働き方として、どのようなことを意識していけばよいのでしょうか。

石動:個人的には、パラレルワークの働き方をかなり試行しています。労働人口が減っていく事実からは免れませんから、ひとりで何役もやったほうが、世の中のためになると思っています。本業の士業のほかに、取材して記事を書いたり、取材されたり、ワイン屋さんもやっていますし、いろんな会社の役員や、PTA会長も務めています。今回の本の執筆も、パラレルワークのひとつですね。今後は不動産屋さんもやっていきたいと考えています。

ーーたしかに副業が当たり前になってきた時代ですが、それにしても数が多いですね(笑)。何個もやってみようと思ったきっかけはありますか?

石動:おもしろそうだと思ったらやってみたい性分だからでしょうか。世の中がおもしろいぞといっているものを、体験せずに死ぬのは損なのではないかと思っています。とりあえず手を出して、試してみたいという性分なのです。

もうひとつは、本業の仕事が明日なくなるかもしれないという危機感があったからです。士業は、AIの発達によって消える仕事としてランクインすることが多いです。いつかの将来、私の本業はなくなってしまうかもしれません。ですが、もしなくなってしまっても生きていかなければなりませんから、他のスキルを身につけようと思ったこともきっかけのひとつです。

あとは、何かひとつのジャンルでナンバーワンをとるよりも、複数のジャンルで80点をとることのほうが得意だからという自分の特性があるということも、起因していると思います。

ーー地方都市にいる人ほど、そういう考え方が必要だと思うのですが、複数のスキルを身につけることに自信を持てない人もいると思います。そういった人はどうしたらいいのでしょうか。

石動:スキルには、無理やりつけるものとそうでないものの2種類あると思っています。僕でいうと、公認会計士や司法書士のスキルは、無理矢理身につけたものですが、〈ドラゴンラーメン〉やライター業にかかるスキルは、やってみてから身につけたものです。

格闘技も、教えるつもりで始めたわけではないので、今は教室を持っていませんが、同世代で同じくらいのレベルの人が教室を開いていたりして、僕にもできるんじゃないかと思っています。

ーー好きなことを仕事にする、という考えに近いのでしょうか。

石動:そうですね。好きなもので食えるようになることは、スキルを身につけるひとつの方法だと思います。

数年前にトヨタが宣言した通り、終身雇用制度はすでに崩壊を始めています。これからは、徐々にジョブ型雇用へとシフトしていくでしょう。それは、裏を返せば、誰しもが努力する時代から逃れられなくなったことを意味しているのかもしれません。

ですが、いくら努力が必要だといわれても、つらいことや嫌なものは続けられません。ダイエットと同じです。つらい食事制限は続きませんが、ダンスなどで楽しく運動できるものは続けることができますよね。これからは、目の前のものを楽しくするためのマインドセットや、夢中になれるものをどういうふうに仕事にしていくかに、考え方をシフトしていかなければいけないのかもしれませんね。

ーーなるほど。夢中になれるものを仕事にするには、どういった視点が必要だと思いますか?

石動:ちょっと前に流行った〈ディスカバリーチャンネル〉というYouTube番組で、大富豪が、自分が持っている資産や人脈を使わず、まったくのゼロからスタートして、再び大富豪を目指すという企画がありました。その冒頭で、ヴァージン・アトランティック航空のリチャード・ブランソンが「ビジネスとは隙間を埋めることだ」と言っていたんです。それが非常に印象的で、本質的な言葉だなと思いました。

スキルを身につけよう! とか、たくさん稼ごう! といった気持ちは必要ありません。儲けようという気持ちから入ると、クリックするだけで5万円みたいな詐欺にひっかかってしまいます。儲ける方法とは、本来、いたってシンプルなのです。〈金入〉が創業当初、イワシの油糟を売っていたように、必要だと思う人に必要なものを届けることが商売の本質であり、スキルなのだと思います。

失敗は成功の元。
行動によって未来を切り拓く重要性。

ーー「とりあえずやってみよう!」というチャレンジ精神が重要だということですね。

石動:僕は行動がすべてを生むと思っています。どんなに素晴らしいことを考えていても、実行に移さなければもったいないと思います。結局、やるかやらないかの二択なんです。やると決めたらできるようになりますし、どうしてもできなかったらやめたらいいんです。とはいえ、僕も人のことは言えないのですが(笑)。

ーーと言いますと?

石動:僕の性質として、安定志向な部分があります。過去を振り返ると、当時成長傾向にあったIT産業に友人たちが挑戦していくなかで、僕は法律や会計のスキルに自分のリソースを大きく割いてしまいました。当時から、性格上、何かに全振りしてリスクをとれず、保険をかけてしまいがちです。それは今もそうで、成長すると信じているものに投資できず、安定が見込まれるものにベットしようという感覚を引きずっている気がしています。

だからこそ、これからを生きていく若い人たちに伝えたいのは、「若いのなら、自分の信じるものに身を投じるのもありなのではないか」ということです。うまくいくに越したことはないですが、それで失敗してみたほうが絶対にいいと思います。

ーーしかし、失敗は非常に怖いという感覚があります。

石動:失敗にも、2種類あると思っています。取り返しのつかない失敗と、取り返しのつく失敗です。取り返しのつかない失敗とは、罪を犯してしまうとか、死ぬとか、肉体に大きなダメージを負うとかです。あとは、前編でもお話しした、人生を狂わせてしまうほどのマイナスになってしまうことも。取り返しのつく失敗というのは、「こんなビジネスをします!」と大々的に掲げていたのに頓挫してしまったとか、空振りしたとかですが、それはまったくの失敗ではありません。

エジソンの名言にもある通り、「失敗したんじゃなくて、成功しない方法を見つけただけ」と考えるほうがきっと正しい。僕も、世の中のいろんな事業を進めている社長たちも、数限りない失敗をして、傷ついた経験があるはずです。でも、その失敗を乗り越えるからこそ、ぐんと成長できるのだと思います。

行動しないこと、チャレンジしないことの先には何もありません。根本的には、「どんなスキルを身につけるか」を考えるより、「どんな人生を送りたいか」を考えるほうが建設的なのではないのでしょうか。

そういった思いを持って真面目に頑張っていれば、誰かがどうにかしてくれるものなんですよ。そんなに無理して肩肘張らなくても、けっこう生きていけるもんです。

ーーでは最後の質問です。石動さんのインスピレーションはどこから湧いてくるのでしょうか。

石動:「未来」です。僕は基本的に未来志向で、メダルや写真も、気がついたらなくしてしまうこともしばしばあるほど、過去にこだわりがありません。

当たり前かもしれないけど、自分の選択や行動の先に未来がある。だからこそ、こういう未来があったら嫌だな、こういう風になったらいいなぁと考えて、今の行動につなげています。

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PROFILE

石動 龍(いしどう りゅう)

青森県八戸市在住。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン店主。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。
ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。